僕は東北生まれで、この稼業も東北ではじめて、その後奈良に越して来た訳だが、同じような状況の人にはほとんどあったことが無い。ほとんどの人に「何で奈良なの?」とか「東京は通り越してきたわけ?」と聞かれるのである。東北から東京を越えて関西圏に来る人はほとんどいないと言って良いようだ。
骨董、古美術を考えると少し違ってきて、東京は一番の日本のマーケットであるが、京都を中心とする関西圏もかなりの需要がある。奈良、京都は都があったところだし、皆さんご存知の通り古いものがたくさん残っておりそれを日々の生活で感じることができる。日本の伝統文化の中心と言っても過言ではない。面白いことに隣接しながらもそれぞれに個性をもっている土地柄は東北や関東圏とは全く違い、古いものから現代のもの、文化まで地域性が色濃く表れている。そんな中で奈良は一番地味と言うか、控えめな感じ。京都が雅と表現するならば、泥臭いと言うか、素朴な感じである。町並みも、お寺も、仏像も素朴である。中世の雰囲気が今尚感じれるような気がするし、緩やかな空気はどこか大陸の雰囲気がありシルクロードの終着点と言われているのがわかる。その大陸の文化が日本固有のものとミックスし、無駄なものが削ぎ落とされ、一般的に素朴と表現されているが僕にはその頃の人々の気持ちの違いなのか非常に洗練されたような現代的感覚を感じている。その感覚は奈良~平安ぐらいのものに強く感じるのである。仏教伝来以前の日本の文化を残しつつ、大陸の文化、洗練された仏教の教えがバランスよく表現されているものが多い。鎌倉になってくると技術的なものを追求していったのが原因なのか、信仰の形態が変わってきたのか、古来の日本的なものが感じなくなってきるように思うのは僕の気のせいだろうか(民間信仰のものは別です。あくまでも代表的な仏教美術において)?
奈良に来て仏教美術に関しての考え方、見方が変わったのは言うまでもない。ここは日本人が脈々と受け継がれた記憶の断片をリアルに感じられる場所である。骨董屋として奈良に移り住んだ僕は今後どう変わっていくのだろうか?
2012/11/1