前回は僕の好きな日本の西洋文化が入り混じった古い壁について書きましたが、今回は壁がとても印象的なイタリアの建築家カルロ・スカルパ(Carlo Scarpa)について思うことです。
建築界の巨匠。実際に彼の建物は見たことはありませんが、写真集などを見る限り、とても壁が印象的な空間をつくっています。特に僕が好きなのは「カステルヴァッキオ美術館(Castelvecchi Museum)」。中世に建てられ、戦争で荒廃していた古城を改修・改築し展示構成までほどこしたもの。デザインはもちろんのことですが、特に古い部分と改修した部分のバランス、ディティールの選択に感動します。また、彼のどの建物にも共通することですが細部まで手を抜かない仕事ぶりに驚嘆します。
特に壁のテクスチャー、マテリアルはかなり良いです。近代でここまで左官の内装仕上げを施した建物は日本には無いでしょう。尚且つ、それは強い主張をせず全体の空間を柔らかく構成しています。この全体の柔らかさは、左官仕上げだからこそできる空気感です。また展示品に自然光を当てたり(違和感の無い新旧の開口)、展示品に合わせ間仕切りの素材、色を変えているにも関わらず既存のものと新設のものとの違和感を全く感じない構成は感動します。壁は少しの違いで、結界のような強い圧迫感を与えることも、自由で無限の広がりを感じさせることもできますが、スカルパは確実に後者です。また、一目で彼の創った空間であるのがわかるのに、個性が主張しすぎていないは、造詣の深さもさることながら、彼自身(我欲)を建物のデザインからあまり感じさせないからではないのではと思っています。
貴重な時間を割いて創ったものや選んだものには少なからず、それに携わった人(人達)の内面が顕れているような気がします。内面を曝け出しているからこそ魅力を感じるのでは?と最近強く感じます。
前回でも書いたとおり、壁にフォーカスして空間を観てみると現代の日本のインテリアにおける壁の意識は深くありません。表面的なもので取り繕うような製品があまりにも多すぎるのが原因ではないかと真剣に考えています。本来、良い素材、技術を持っていながらも、それらにニーズがなく消滅していくことは本当に残念でならない。空間やデザイン、アートもこの先、グローバル化が進んでいくなかで、技術の独自性、ローカリズム、個人の解釈の仕方が個性(視覚)に反映していくのではないかと強く感じます。ステージがより大きな1つのものになっていくからこそ自分達の文化を深く考えていかなければならないのではないでしょうか?スカルパのようにイタリアの文化をベースに様々なものから吸収し独自の世界観をポエティックに具現化していくことはアーティストやクリエーターでなくとも楽しく豊かに生きるために、更に必要不可欠な要素になっていくと思います。
2011.01.06